庵主闘病記




2019年、肺腺癌(ステージⅢA)と宣告され、現在も治療継続中です。


一個人として、真言宗僧侶として、自身に起きた出来事や経験をここに綴っていこうと思います。


私が癌になったことをホームページに載せ、形にする事に抵抗があり正直悩みました。

けれども、同じような経験をされている方、現在も手術や副作用が伴う様々な治療を受けている方やそのご家族、周りの方々と少しでも情報を共有し、何かお役に立てるのならばと思い立ち書く事にしました。


最後までご覧いただければ幸いでございます。



奥本 兼昭






2018年 秋…

長らくの喫煙生活に終止符を打ったのは、吐き気を催すくらいの咳が2週間も続いていたからでした。咳もですが、痰。

ひどいときには、一週間くらい毎晩ティッシュ箱の半分使ってしまう程出ていました。




咳が出はじめてからすでに2ヶ月程経過していたので、かかりつけの病院を受診することにしました。(この時、禁煙から約7ヶ月経過していました)




通常通りの問診や診察をし、結果を聞きます。


肺気腫ですね
また一か月後に来てください

※肺気腫…メディカルノート引用





何故か、もやもやとしたモノが払拭できず


念のために、専門のとこで診てもらお

なんもなかったら、元のお医者さんとこいけばいいし


そんな気持ちで他の病院を受診することにしました。




問診、検査。そして結果を聞きます。






診察室に貼られた、さっき撮った胸辺りのレントゲン写真。医学知識のない私にでも確認できるくらい


“ ぽつん ” とあります。


白い影・・・
何これ・・・


と思うと同時に告げられた。


癌の可能性があるので、詳しい検査をした方がいいでしょう



そこから 検査・検査・検査…

(ここでの検査数が一番多かったと後になって思います)

そして結果は…


やはり癌です




「なんでやねん!!!!」


それしか出てこない。

ありきたりかもしれないけれど


なんで…
なんで…
なんで…


それが告知された時の気持ち。
“何で私が”と強い怒りと憤りを感じました。当時を冷静に思い出そうとしても、やはりそれしかでてません。





周りのアドバイスや、いろんなサポート、師僧がかかりつけ医を紹介下さったこともあり、他県でのセカンドオピニオンを受けることにしました。



受診した他県病院でも検査をしましたが、そこで大きな病院への紹介状を渡されました。

※紹介された総合病院の初診外来受診は、原則として他の医療機関からの紹介状が必要で、まずは近隣の医療機関での診察が必要となるとの事でした。(ただし緊急性のある場合は別です。)



その地域では3本の指に入る大きな総合病院。そこでも数々の検査をします。

内視鏡で癌細胞を摂取して、癌センター?みたいなところに送り


PET検査

内視鏡検査

外科での手術説明

(一応手術説明はありましたが、どんな結果であっても私は手術を受ける気はありませんでした)


この頃

私にとって必要な重要な検査をしているのは重々わかっているのだけれど、、、正直なところ検査疲れ、、、状態でした。


そして、診断結果が告げられました。


・ステージⅢA

・2ヶ月の入院

・治療方法

・週1回の抗がん剤治療

・週5回の放射線治療


入院日もこの時に伝えられました。




肺がんで、一般的な症状として最も多くみられるのが、治りにくい咳です。
その他にも

・胸の痛み
・痰、血痰(けったん)
・息切れ
・呼吸時のぜーぜー音(喘鳴(ぜんめい))
・声がかれる(嗄声(させい)
・顔や首のむくみ

などがみられることもあります。

私が、告知されたステージⅢAとは、病期(ステージ)病気の進行程度を示したもので、治療方針を立てるうえで重要な判断材料となります。

・大きさや広がり
・リンパ節への転移
・遠隔転移の状況

によって、大きくⅠ期からⅣ期の4段階に分けられます。 

Ⅰ期...癌が肺の中に留まり、リンパ節への転移はない状態。

Ⅱ期...リンパ節転移はないが、肺の中の癌が大きい、又は、同じ側の肺門リンパ節に転移している状態。

Ⅲ期...肺の周りの組織や重要な臓器に広がり、リンパ節にも転移している状態  →→私はここ。

Ⅳ期...離れた臓器に転移していたり、胸水にがん細胞がみられる状態。

数字が大きいほど、また、同じステージではA、B、Cの順にがんが進んでいることを示しています。


病状に関する資料はがん免疫.jp より引用


2019年8月1日入院。


入院2日後には、第1回目の抗癌剤治療から始まりました。

まず驚いたのが看護師さんの服装です。


白いつなぎみたいな、すぐに脱着・取り外しができるビニール製で、顔・マスク・目の個所が、透明のシールドになっているコロナ治療にあたる医療従事者の映像でみるあの完全防護服に似ていました。


抗癌剤の液体が、目や皮膚に付かないようにしてるのかな


いざ投与が始まった時


、、、!?そんな液体を体に入れる、、、!?


看護師さんの姿と、今から投与される“ソレ”を見て、私の顔には“驚き”“戸惑い”が出ていたのでしょう。


奥本さん。
治療の事で、いろいろ、厳しい説明受けたでしょ。その全部が、奥本さんにあてはまるわけではないですし、何かあればナースステーションで対応するので、安心して治療を受けて下さいね。


自分にとって大きい一言でした。

その時の看護師さんの笑顔も。


いよいよ点滴開始…。


担当医さん・看護師さんも、20~30分毎に様子を見に来てくださいます。時間は、抗癌剤投与と、他の点滴(約1時間)を含めて3時間位だったように思います。



点滴中は、特に注意深く、担当医さん・看護師さんとも様子を見に来て下さいました。

抗癌剤を投与し始めると、体がポカポカしだします。例えるなら、少しお酒を呑んでいる感覚です。そして睡魔が襲って来ます。



ですが、担当医さん言われてしまいます。

寝てしまうと体に変化が起きたとき、判らないから頑張っておきてて下さいね



一回目の治療が終わりました。


何事も無く終わった…


というのが本音。


入院してからは、正直、色々考えてもしょうがない。とにかく乗り切るしかない、考えてもわからないし、不安になる、、、そんな状態でした。



治療前の説明で

・毎週月曜日、木曜日採血があります。

・抗癌剤開始後、1週間~10日位で副作用が「必ず」出ます。

・血液検査項目中、何項目かの数値が、下限値を下回ります。

・場合によって輸血の処置もあります。



と聞いていました。


1回目の抗癌剤治療後の採血で何項目かの数値が下がりました。

2回目の抗癌剤治療後の数値も下がりました。



来週の抗癌剤治療で、また(下限値より)下がるんやろうな、、、




そして、3回目の抗癌剤治療。


その後の採血があり、看護師さんが結果を持ってきてくれるのですが、検査結果の紙を私が見る前に


奥本さん、数値が上がってますよ



と教えてくれました。


《え??》

《良かった~》



驚きと安堵が入り混じり湧いてきたと同時に、慈明庵のお不動様・父・母の顔がよぎりました。






3回目の抗癌剤治療を終えた時点で、改めて私に起きている不思議に気づきます。



副作用が全く無い



一般的に副作用で知らせているのが

・体重減少

・嘔吐

・脱毛

・口内炎

・手足のしびれや痛み

などですが、何もありません。治療前と後に変化はありませんでした。



看護師さんから


この感じやと食事の量も、足らんのとちがう?


と、病院食を増やせるか調べてくれました。

結果、増えませんでしたけど(笑)


食事は、何処の病院でも同じでしょうけど、私は、食事制限かかってなかったので、ご飯にかける瓶に入った海苔を置いてました。副作用がでたときの説明で、食べられるものを食べて下さいと説明がありました。

当然ですが、生物ダメ、カップラーメンOK。
それから、足らずは院内のコンビニでとのことでしたが、コンビニの弁当は、医者に相談して下さいとのことでした。(それ以来コンビニの弁当は今でも食べません。かなりよくないと私は思っています)









私は、独身で今回の癌治療を始めるにあたり、身の回りのこと、通院、その他も多方面で師僧はじめ、たくさんの方々のお力添えを頂き、頼らせていただくことで治療に向き合い専念する事が出来ました。助けていただいた皆さまにこの場を借りて改めて感謝申し上げます。




入院を控えた2019年7月31日。


師僧が私のために特別護摩祈祷を執り行ってくださいました。それだけでも有り難く思っておりましたが、師僧の呼びかけで、兄妹弟子も忙しい中参加してくれました。

今、振り返って思うのは、抗癌剤治療のときに家族が付き添でつけるのならば、ついてあげてほしいなということです。


他の患者さんは付き添いがありましたが、私にはそれがありませんでした。
他府県で治療した事もあり、常に一人だったので、反面、色々考えずに向き合えたのかもしれません。


後、どんな病気にしても、お見舞いに来てくれたら嬉しいものです。
患者さんの状態や状況にもよると思いますが、お見舞いにいって他愛無い話しをしてあげるのはとてもいいと思います。


入院すると、自由な時間が多く、買ったまま読んでいない本を読みました。

2020年に休刊となってしまいましたが、月刊『大法輪』や塩沼亮潤大阿闍梨の著書、塩沼氏と五條官長(吉野金峯山修験本宗の僧侶)の対談なども読みました。

ある高僧が書かれた一冊を読んでいたとき、目に止まりました。


修行者にとって

病中は、最大の業である



私は、荒行は好む方なので、この言葉に出会ったことで

この闘病が業であるのならば

やらせていただきます


その思いで今も向き合っています。

著者は、癌を5回も経験されていて、医者から『◯◯さんは、癌を楽しんでるようですね』と言われたそうです。(適切な表現かわかりませんけれど)


放射線治療についても少し書いておきます。


放射線治療は、週に5回、月~金曜日まで。

時間的には、5分位。


放射線治療の副作用は、治療した場所に生じるため、癌の範囲や場所ごとに異なります。


・食道の炎症による嚥下障害

・気管支や肺の炎症による咳や発熱

・皮膚炎による皮膚の発赤や痒み

通常、治療終了数週間で症状は消えて、全身への影響はありません。



ちなみに、私は放射線治療に関しても、やはり痛みや副作用もありませんでした。





入院中、同室の患者さん(2~3名)も癌患者さんです。

よく同室になると交流があったりしますが、そんな状況ではありません。

病室では、皆、昼間でも、カーテン閉めてました。

全く食事のとれない方、一晩中の嘔吐を繰り返す方、昼夜問わずかなりしんどそうで、本当に辛そうでした。


私だけが至って普通で、全く副作用が無いことに、何故か申し訳ない気持ちになってしまいました。



今思うと、死と向き合う所に居たんだと、あらためて感じます。

当初予定された入院中の治療計画も滞りなく終わり退院の日が決まりました。




4回目の抗癌剤治療の前日に

予定の半分終わりましたね

と、私に話しかける先生を見て、ふと思い出しました。

初診の時、告知の時、あの時の先生の表情。
無表情のような、、、冷たい?とは違うな、、、何なんだろな、、、と感じたのは、辛い表情だったのか。先生は、自分の事のように、真摯に考えてくれてたんだと…私は感じました。

“予定の半分”と言って下さったその時の先生は、笑顔でした。


4回目以降の抗癌剤治療でも副作用も無く、採血の結果も、上限値~下限値の範囲でおさまり、最後の抗癌剤治療も無事に終わりました。
退院前日に来られた薬剤師さんとこんな会話をしました。
奥本さん。
とうとう、副作用無かったですね。

副作用の無い方って結構いらしゃるんですか?

男性では初めてですね。この病院初まって2人目で、もうお一人は、乳癌の方で、食事の量が増えて困ったそうですよ。

担当医さんからは
何で、そんなに元気なんですか?奥本さんにとって、こんな抗癌剤、どうってことないって感じなんですか?


そんな事を聞かれても私自身もわかりません。抗癌剤治療はこれが初めてで、今までやった事が無いんですから(苦笑)

2019年9月25日退院。



これからの治療として

・通院で約1年間の免疫療法の継続

・退院翌月1週間の予定で入院し、免疫療法の点滴

とのことでした。


10月にふたたび入院し、免疫療法実施。副作用などが無いか、確認し退院となりました。

必ず出ると言われた副作用もなく、放射線治療でも痛みなども無いままでした。


11月からは、通院で月2回の免疫療法の治療になりました。その間も体調に大きな変化はありません。


強いて言うならば、退院後、免疫療法4回目位から、放射線があてられた肺の部分が予想よりも広く白く広がり、免疫療法を1ヶ月ほど様子を見るため中止になりましたが、中止から1ヶ月後のレントゲン検査では、白い影は小さくなってくれたので免疫療法の再開となりました。



それから一年。コロナ禍での通院。

2020年9月。予定された免疫療法も終わりました。


今後3ヶ月に1度の定期検査。

そして約5年経過観察となります。



5年です。

短いのか長いのか、、、今考えないようにしてます。正直考えると動けなくなってしまうからです。

今回、癌を経験して思うこと。


告知後、担当医者から強く手術を進められました。


肺腺癌で、手術できるのは、不幸中の幸いですよ、90%が手術出来ないんですから


と。ですが、私は決めていました。


手術はやらない

この状態で、行くとこまでいく!

(なぜそう思ったのかわかりません)


癌の治療で手術というのは、諸外国ではかなり少ないみたいです。

日本は外科の技術が高い為、手術を進めるみたいですけど、、、。


ある方から言われました。


一度治療方針を決めたら

後ろを振り向かない


告知された時、落ち込み、自分では、動けない状態になりました。

《病は気から》の言葉は本当に大事だと身をもって感じています。



今の私があるのは、周りの方のおかげです。


もし、どなたか、そのようなかたがおられたら、どうか手を差し伸べてあげて下さい。

気丈に見えても、心が固まり、時間が止まり動けなくなっているかもしれません。声掛けでもよいです。寄り添ってあげてください。

私自身も今思うと入院中、自分だけ時間が止まっているような気持ちになっていました。


日々進歩している現代医学なので、治療薬等も良いものが出来ています。

気持ちで、決して負けてはいけません。


「人は癌だから亡くなるのではなく、いずれ必ずその時がくる」

癌を経験した私個人が想ったことです。


後、ストレスですね。医者からも注意されてますけど、やはり人間関係です。


一緒にいることで互いが、幸福を感じられ、心が休まり、共に笑え、元気になれる。

仕事が上向きになるようなアイデアや利益を分け合い、高め合える。嘘や偽りは必要ありません。


有形無形の価値を生み出すことができ、同じ方向や目標を見て歩めるかどうかが大事だと思います。

一緒にいる価値を見出せる関係かを知るには、自分の経験値と本心しかありません。


限られた時間と命を削ってまで、惰性や馴れ合い、しがらみ、妬み・僻みなど、ストレスと揉め事を生むような、マイナスのモノは断捨離したほうがいい。何の徳もないのですから。


今後、私にできる事、私だから出来ることは何なのか、模索しながら、一つ一つ真摯に向き合って、この経験を活かしたお勤めをさせていただきたいと思っております。






長文、最後までお目通し下さいまして心よりお礼申し上げます。ありがとうございます。

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